2015年3月10日火曜日

始祖鳥記

長く願っていた新しい船を手にしてみて、何か妙な寂しさばかりが残った。何か急におれは年をとってしまったような、何をやっても以前のような手応えが感じられない。日比に分家して家も建て、女房と三人の子がいて、もち舟も五隻、あとは借財を返していけばいいだけだ。ところが、気がつくとため息ばかりついてる。十六年ぶりにきいた幸の噂は、そんなおれの目を覚まさせた。おれはこんなところでいったい何をやってるんだと、無性に己に腹が立ってきた。お前が空飛んで入牢させられた話は、おれが誰だったのかを思い出させた。おれが新しい船で、何をしなければならないのか、やっとわかった。このまま廻船業を広げていけば、いつかは、江戸の問屋たち、ひいては公儀とぶつかる日が来ることはうすうす感じてた。おれは、それから逃げていただけだ。やっと踏ん切りがついた。とうとう遠州灘を越えねばならん日が来たと、そう思った。そうしたら、お天道様がまた明るくなって、周りの何もかもがきらきらし出した。

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