2010年4月30日金曜日

ストレンジデイズ

何というバカていねいな言い方だ、と反町は気分が悪くなった。こういう言い方は相手に敬意を払っているわけではない、ただ単に責任を回避しているだけなのだ。わたしは、と反町は二回深呼吸をした後にゆっくりと言った。わたしは確かに何の力も持っていない人間です、スザキさんは世界的に名声のある作家です、でもわたしは然るべきアポイントを得て須崎さんにお会いすることができまして、プロジェクトについて話しました、仕事ですから断られるのはしょうがありませんが、その理由は今後のためにもぜひお聞きしたいと思います、キノシタさん、わたしは間違っているでしょうか?

2010年4月25日日曜日

ストレンジデイズ

やりたいことがわかっているのにどうすれば実現できるのか見当もつかないと言う状況で家族と一緒にすごすのは拷問のようなものだと、反町は思った。自分は一体何者なのかわかっていない状態で、妻や娘と何を話せばいいのかわからない。自分が自分であることについて宙ブラリンの状態なのだ。妻や娘の前では「夫」であり、「父親」でいなければなら内。自分が何者なのかわからないまま、「夫」や「父親」になれるわけがない。それは「夫」や「父親」という立場に依存することになる。

2010年4月20日火曜日

恋とはいつも未知なもの

「あたしがあなたの悪口を言ったらね、『そんなこと言うもんじゃないよ』って、言ってくれるの、『あいつは君のことが本当に好きなんだからさ』って、そういうのって男の人どうしの陰謀だってわかってるんだけど『わかってやれよ、苦しんでいるのはあいつも同じなんだからさ』って言われると、うれしくなってしまうのよね」女の口からやわらかく細い声で『そんなこと言うもんじゃないよ』『あいつは君のことが本当に好きなんだからさ』と語られると優しい気分になる。Dから優しさを感じて無意識の内に演技をしているからだろう。常に演技なのだろうか、とスコッチを舌に乗せながら考える。厳密に言えば、他人の目があるところでは全て演技なのだ。

2010年4月15日木曜日

ナイフ

(エビスくんより)「ゆうこな・・・ゆうべ、なんべんも言うた。せんせが黙っとき言わはっても、喉ぜえぜえさせながら・・・お兄ちゃんのことな、ひろしのこと・・・これからもずうっと、仲良うしたって、友だちでいたってください、て。お兄ちゃん、学校終わっても友達と遊べへんさかい、エベっさんが友だちでいてくれたらええなあ、て・・・」アホや、ゆうこ、アホやおまえ。ぼくはどうしていいかわからなくなって、スリッパで床を踏み鳴らした。なんでそんなことお願いすんねん、いっぺんしか会えんのやぞ、エベっさん、いっぺんしか来てくれはらんのやぞ、お兄ちゃんのことお願いしてどないすんねやアホ。

2010年4月10日土曜日

竜馬がゆく

(あの方の厄介なことは、自分の才能、度胸にうぬぼれきっていることだ)と竜馬は思っている。だから、カサブタのはった「定見」がひどく自慢なのである。家来はおろか、他の大名が馬鹿にみえて仕方ない。(わずかに他人よりすぐれているというだけの知恵や知識が、この時勢になにになるか。そういう頼りにならぬものにうぬぼれるだけで、それだけで歴然たる敗北者だ)竜馬は見ていた。(しかも)と思うのだ。いかに一世を蓋うほどの才知があろうともとらわれた人間は愚者でしかない、と見ている

2010年4月5日月曜日

竜馬がゆく

清河は、才にまかせ奇策を用いすぎた。不満の第一はこれ。それと、人を引きずってゆくときに、人の心理をつかんでいない。だから、事成るという寸前に同志からほっぽり出され、つねに失敗してきている。